東京国際フォーラム内で迷子になった話

2016年12月16日、有楽町の東京国際フォーラムにミュージカル「RENT レント」を見に行った。

2014年夏、それまで元気だった高齢の母が過労で体調を崩し、それ以来、膠原病(筋痛症)、圧迫骨折、アルツハイマーなど次々と病気に苦しむようになった。

それでも、医師の勧め(「興味のある事に積極的に外出しなさい」と言われている)もあり、多少体調が良い時は芝居や美術展などに出掛けるようにしてきた。
母がちょっとでも興味を示したイベントはすぐ調べて予約を取る事にしている。

母は特にミュージカルが好きなので、ブロードウェイミュージカルが来日すると聞くと、母に「これ行ってみない?」と聞いてみる。
2014年の秋には「雨に唄えば」、2015年夏には「天使にラブソングを」、2015年秋は「ピピン」を見に行った。

しかし、2015年の12月に背骨を圧迫骨折してしまい、それ以来ますます疲れやすくなった。
月1~2回の通院がやっとという日々を過ごすうちに、外出する気力も失せてしまったようだった。

ところが最近、少し体調が良くなってきた。
久しぶりに美術展「ゴッホ・ゴーギャン展」が見たいと言い出した。
心配しながら上野の東京都美術館に行ってみたら、思ったよりも疲れが残らず、元気で楽しそうだった。

そして今度は、ミュージカルを見に行きたいと言うようになった。
ちょうど12月にブロードウェイミュージカルの「レント」が来る予定だった。
会場は有楽町の「東京国際フォーラム」の「ホールC」という所。行ったことはないがそれほど遠くではないし、新しい建物だから車椅子で困ることもなさそうだ。
1ヶ月後に迫っていたが、まだチケットが買えそうだったので、急いで予約する事にした。

主催のキョードー東京に車椅子席について電話で問い合わせる。
車椅子利用者1名と高齢者1名と付添1名で見るにはどうしたらよいか聞いてみる。

・車椅子利用者本人は、チケットを購入して連絡すれば、車椅子のまま見れるスペースは必ず確保できる。
・同行者も1名なら車椅子スペースで一緒に見れると思うが、状況によっては確約できない。
・もう一人は自席で見る事になる。

手順としては、車椅子スペースで見たい人数分(1枚または2枚)のS席チケットとその他人数分のチケットを買って、電話でその旨を伝えておく。
当日会場で関係者に声をかけて案内をお願いすれば、会場の入り方、車椅子席への行き方を案内してもらえるという事だった。

車椅子利用者の人数によって席が決まるので、まだ2名とも車椅子スペースに席をとれるか1名だけになるかはわからないとのことだけど、
とりあえず、3名分のS席チケットをネットで買ってコンビニで発券し、電話でキョードー東京にチケットを購入した事を伝えた。

駐車場の状況なども問い合わせて確認しておいた。
地下の駐車場事務所に聞いたら、障害者用の駐車スペースはあるが、予約はできないらしい。
でも、平日の昼間ならほぼ間違いなく空きがあるだろうとの事だった。

さあこれで準備万端!と油断して、国際フォーラムの案内図などはあまり詳しく確認していなかった。これが大失敗のもとだった・・・

最近好調だった母の体調が、2週間ほど前からまた不調になり、出かけられるかどうかも分からなくなった。
一時は中止しようかとも思ったが、数日前からまた好転し、本人も出かけたいと言っているので、疲れすぎないように心がけて行ってみようという事になった。

2016年12月16日当日
私と母、それに運転と付き添いのKさんの3人で、車で東京国際フォーラムに向かう。

思いのほか道路が混雑し、東京国際フォーラムの到着が予定より遅れた。
地下3階の駐車場の障害者用駐車スペースに到着したのが開演10分前くらいになってしまった。

障害者用駐車スペース近くのエレベーターにあわてて乗る。しかし、そのエレベータは地下1階までだった。
しかたなく、地下1階のコンコースで降り、会場のホール「C」のサインの方を目指して移動する。

東京国際フォーラムは広いので、横断するのはかなりの距離だ。
やっと「ホールC」の場所にたどりついたが、そこにはエスカレーターしかない。
エレベーターは見当たらない。

付き添いのKさんが「案内してくれる人を探して来ます」と、エスカレーターを駆け上がって上階に探しに行ってくれた。
そこに私服の会場関係者らしき方が通りかかり、「ご案内しましょうか?」と親切に声をかけて下さった。
ちょうどKさんが制服の案内係の方を連れて戻って来る所だったので、「今、連れが案内係の方を連れて来てくれるみたいなんで大丈夫だと思います」と断ってしまった。大失敗。
その方は「そうですか、もしわからなかったら、その辺のお店の人にでも聞けば、みんなわかりますから聞いて下さいね」とアドバイスしてくれた。

Kさんが連れて来てくれた制服の案内係の女性に誘導され、館内をまた横切り、一番端まで戻る。外の中庭のようなコンコースに出る。

と、何を思ったか、案内係の女性が突然物も言わず、手に持った案内図を眺めながらすごい勢いで広場を右に左に走り回りだした。
私達は訳がわからず、茫然と待つだけ。
Kさんが「行き方がわからなくなっちゃったみたいですね。他にわかる人を探してみます」と、聞きに行ってくれた。

私と母はしばらく二人を待っていたが、そこに案内係の女性が戻り、「わかりました、あっちのエレベーターで1階に上がります」と促され、コンコースを横切り、別の方に質問していたKさんを促してエレベーターに乗る。

乗ったエレベーターのボタンを見るとなんと4階以上の階への直通エレベーターだった。
しかたなく4階まで上がり、4階で降りて別のエレベーターに乗り換え、1階まで降りる。
やっと地上階に出る事ができた。

しかし、そこでまたデジャブのような光景が・・・
案内係の女性が再度案内図を片手に走り回る。
またしばらく待った後、「わかりました、こっちのエレベーターに乗って上に上がります」と促され、エレベーターにたどりつく。
でも行った先にあったのは地下に降りるエレベーター・・・
女性はそれが納得できないのか、エレベーターへの通路を出たり入ったりしてオロオロしている。

ついにKさんが我慢の限界に達してしまったらしく、
「さっきから、いくらなんでもひどくないですか?」と、怒りを抑えた声で抗議する。
案内係の女性が「はい・・・」と消え入るような声で答える。
Kさんは「その案内図ちょっと貸して下さい」と、案内図を受け取り、
それを見ながら「逆じゃないですか、それにこの階にもわざわざ遠回りしてあのエレベーターを使う必要無かったじゃないですか」と指摘する。
女性は「はい・・・そうですね・・・」と弱々しい声で応える。

案内しなければいけなくなってしまったものの、行き方がわからなくなって、完全にパニクってしまったのだろう。
ちょっと気の毒になってしまった。
同時に、申し訳ないけどこの状況はベタなコントみたいでちょっと可笑しくもあった。

でも、案内して頂いてこんな不満を言うのも申し訳ないが、
わからないなら、わからないという事をもっと早く説明してほしかった。
そうすれば、地図を見るのが得意なKさんに見てもらうなり、他の方に方に聞くなりできたのに。
今更怒っても仕方ないので、Kさんの誘導で急いで会場に向かう。

会場につくと現場責任者らしき女性の方が、てきぱきと仕切ってくれる。
「長い時間連れ回してしまったそうで申し訳ありません」と恐縮していただき、いろいろお気遣い頂いた。こちらも恐縮する。
上演後30分ほど経ってしまっていたが、しかたなく途中で入場する。
こんなに遅れて入場するなんて周囲のお客さんや演者の方々に申し訳なかった。

途中からになってしまったが、「レント」は素晴らしかった。
とにかく歌が上手い!今まで見たミュージカルの中でもトップクラスに歌が上手いと感じた。
それに曲がどれも素晴らしい。
「シーズンズ・オブ・ラブ」を聞いていたら、なぜか涙が止まらなくなってしまい困った。

“52万5600分
1年をどう計るのか
朝日の数、夕日の数、夜中の数、コーヒーの数
インチ、マイル、笑いの数、けんかの数
「愛」はどうだろう
「愛」で一年を計ろう
愛の季節で”

会場を歩きまわっていた間は母の疲れが心配で、
このまま家に帰ろうかと何度か思ったが、
家に帰っても「ああ楽しかった」「ああ楽しかった」と喜ぶ母を見ると、見て良かったとつくづく思った。

それにしても、今回の事で、人に頼ってばかりじゃ駄目だと反省した。
車椅子で外出するようになってから、どこでも親切に案内して頂けるので自分で努力しなくなってしまっていた。
人に頼らず、自分で場所がわかるくらい会場の下調べをしておくとか、
早すぎるくらい時間に余裕を持って出発するとか、
あたりまえの事だが、しっかり準備することを心がけておかなければいけないと痛感した出来事だった。

narida
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当サイトの管理人。 昭和30年代生まれの高齢オタクです。 筋肉の難病で車椅子生活をしていますが 初音ミクで音楽を作ったり、コミpoでマンガを作ったり、 客船で旅行したり、サッカー観戦したりと 脳天気な生活をしています。 http://ii.la/narida/